DAY1:ロックの血統が鳴り響く――“原点回帰”と“現在進行形”の交差点
THE STROKES
まず初日を象徴するのは、NYガレージロックの象徴The Strokes。2001年のデビュー作『Is This It』でロックの流れを一変させた彼らは、無駄を削ぎ落としたサウンドとJulian Casablancasの退廃的なボーカルで一時代を築いた。
代表曲として挙げたいのはやはり「Last Nite」。この楽曲は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやストロングな70年代ロックの影響を感じさせながらも、当時のNYの倦怠感や若者の虚無感をリアルに切り取った一曲であり、リリース当時は“ロックの再生”を告げる決定打としてメディアから絶賛された。ギターリフの反復とルーズなビートは一見シンプルながら、ライブではその粗さが逆に爆発力へと変わり、観客の熱量を一気に引き上げる。実際のフェスではイントロが鳴った瞬間に歓声が爆発し、世代を超えた大合唱が巻き起こる光景が何度も生まれてきた。
今回のサマソニでも、その“初期衝動の共有”が最大の見どころとなるだろう。日本ではTHE ORAL CIGARETTESやSuchmosが受け継いだクールなロックの系譜を、改めて本家で体感できる貴重な機会となる。さらに近年の楽曲も織り交ぜたセットリストが予想され、過去と現在が交錯する構成の中で「Last Nite」がどのような位置で鳴らされるのか、そのドラマ性にも注目が集まる。
KASABIAN
続くのは、UKロックの熱狂を再燃させたKasabian。ダンスミュージックとロックを大胆に融合させた彼らのサウンドは、フェスという空間でこそ真価を発揮する。代表曲として外せないのが「Fire」。この楽曲は2009年のアルバム『West Ryder Pauper Lunatic Asylum』からのシングルで、当時のUKロックシーンにおいて“再びスタジアムを揺らすアンセム”として強烈な存在感を放った。ミニマルなビートと繰り返されるコーラスは一種のトランス状態を生み、ライブでは観客が自然と手を挙げ、声を重ねていく“共鳴装置”のような役割を果たす。
現在はSerge Pizzornoがフロントを担い、新体制としての進化を続けているが、「Fire」はその変化を越えてなお核として機能し続ける楽曲だ。サマソニの大規模ステージでは、その反復がさらに増幅され、観客全体が巨大なビートの中に飲み込まれる瞬間が訪れるだろう。
日本では[Alexandros]などに通じる“踊れるロック”の文脈を体感でき、Z世代にも直感的に刺さるパフォーマンスになるはずだ。加えて、近年のサイケデリックな要素を強めた楽曲との対比によって、「Fire」の持つ原始的なエネルギーがより際立つ構成にも期待したい。
Cardinals
そして注目の新鋭として名を連ねるCardinalsは、クラシックなロックの精神を現代に蘇らせる存在。まだキャリアは浅いながらも、シンプルで骨太なサウンドとエモーショナルなメロディで急速に評価を高めている。
代表曲として紹介したい「Roseland」は、彼らの音楽性を象徴する一曲であり、90年代ブリットポップやUSインディーの影響を感じさせつつも、どこか孤独と切実さを孕んだ現代的な響きを持っている。リリース当初からインディーリスナーの間で話題となり、“新しいのに懐かしい”という評価を受けたこの楽曲は、ライブでこそその真価を発揮する。特にサビでの感情の爆発は、スタジオ音源以上に荒々しく、観客の共感を直接的に引き出す力を持つ。フェスという開かれた空間では、その未完成さすら魅力として作用し、観る者に強烈な印象を残すだろう。
日本のHelsinki Lambda ClubやDYGLといったインディーシーンの流れともリンクし、“これから”を担うバンドのリアルな瞬間を目撃できるはずだ。今回のサマソニでは、大観衆の前でどこまでその熱量を解き放てるのか、その挑戦そのものが最大の見どころとなる。
DAY2:ジャンルを越境する“知性とグルーヴ”――成熟した音楽の深みへ
David Byrne
2日目の核となるのは、トーキング・ヘッズのフロントマンとして知られるDavid Byrne。アートとポップの境界を自在に行き来する彼の表現は、まさに“音楽の未来”を先取りしてきた歴史そのものだ。
代表曲として取り上げたいのは「Once in a Lifetime」。この楽曲は1980年、Talking Heads時代に発表され、ファンクやアフロビートの要素を取り込みながら、ミニマルで反復的な構造を持つ革新的なサウンドで当時の音楽シーンに衝撃を与えた。歌詞には現代社会における自己喪失や日常の空虚さが込められており、“気づいたら同じ場所にいる”というフレーズは時代を超えて共感を呼び続けている。ライブではこの楽曲が持つトランス的なリズムがさらに強調され、身体の動きやステージ演出と一体化することで、音楽という枠を超えた“パフォーマンスアート”へと昇華される。
特に近年のツアーでも見られたミニマルなセットと緻密に計算された動きは、フェスの開放感の中でも強烈な集中力を生み出すはずだ。日本ではCorneliusの実験的なポップ感覚や、坂本龍一が追求してきた音と思想の融合とも通じる部分があり、Z世代にとっても“知的に踊れる音楽”として新鮮に映るだろう。今回のサマソニでは、その象徴的楽曲がどのような再解釈で提示されるのか、歴史と現在が交差する瞬間を目撃したい。
Steve Lacy
続いて、現行R&Bシーンを象徴する存在Steve Lacy。The Internetのメンバーとしてキャリアをスタートさせ、iPhoneでの宅録というDIY精神から世界的な評価へと繋がったそのストーリー自体が、Z世代の価値観と強くリンクしている。
代表曲として欠かせないのが「Bad Habit」。この楽曲は2022年にリリースされ、TikTokを通じて爆発的に拡散し、全米チャート1位を獲得するまでに至った。軽やかなギターリフとミニマルなビートの中に、後悔やすれ違いといった感情が繊細に織り込まれており、その“余白”の多さこそが現代的な魅力となっている。ライブでは、この楽曲が持つ空気感が観客の呼吸とシンクロするように広がり、派手な演出がなくとも深い没入感を生み出すのが特徴だ。サマソニのような大規模フェスにおいても、その親密さは失われることなく、むしろ広大な空間に静かな感情が広がるという独特の体験を提供してくれるだろう。
日本では藤井風やSIRUPの持つソウルフルかつミニマルな音楽性にも通じ、ジャンルを越えて“空気で聴かせる”スタイルとして強く共鳴するはずだ。今回のステージでは、観客がスマートフォン越しではなく“その場の空気”として音楽を体験する瞬間が生まれるに違いない。
Suede
そしてUKブリットポップの象徴Suedeも、この日の重要なピースだ。Brett Andersonの官能的でドラマティックなボーカルは、90年代のUKロックにおいて異彩を放ち続けてきた。
代表曲として挙げるべきは「Beautiful Ones」。1996年に発表されたこの楽曲は、グラムロック的な煌びやかさと攻撃的なエネルギーを併せ持ち、“美しさと破壊性”というテーマを象徴する一曲として高く評価された。リリース当時からライブでの破壊力は群を抜いており、サビでの爆発的な展開は観客の感情を一気に解放するトリガーとして機能してきた。現在もそのパフォーマンスは衰えることなく、むしろキャリアを重ねたことで楽曲に新たな深みが加わっている。サマソニのステージでは、そのドラマティックな構成が大観衆の中でさらに増幅され、観客一人ひとりが“物語の登場人物”のように没入する瞬間が訪れるだろう。
日本ではL’Arc〜en〜CielやBUCK-TICKが体現してきた耽美的なロックの系譜とも重なり、その美学を世界基準で体感できる貴重な機会となる。今回のライブでは、「Beautiful Ones」がどのタイミングで放たれるのか、その一瞬に全ての感情が収束するようなカタルシスが期待される。
DAY3:祝祭のクライマックス――“多幸感”と“衝動”がぶつかる最終章
Jamiroquai
最終日の幕開けを飾るのは、アシッドジャズ/ファンクの金字塔Jamiroquai。フロントマンJay Kayのカリスマと、緻密に組み上げられたグルーヴは、時代を超えて“踊る理由”を提示し続けてきた。
代表曲として取り上げたいのは「Virtual Insanity」。1996年に発表されたこの楽曲は、テクノロジーと人間性の乖離をテーマにしたリリックと、革新的なミュージックビデオによって世界的な評価を獲得し、グラミー賞も受賞した。特に動く床の上でパフォーマンスするMVは、音楽と映像の融合として語り継がれる名シーンだ。ライブではこの曲が持つファンクネスがさらに強調され、ベースラインとリズムセクションが観客の身体を自然と揺らしていく。サマソニの開放的な空間では、そのグルーヴが何倍にも拡張され、観客全体が一体となって“巨大なダンスフロア”へと変貌する瞬間が訪れるだろう。
日本ではNulbarichやSuchmosが継承してきた都会的ファンクの源流として、その本質を体感できる絶好の機会となる。さらに近年のライブでは即興的なジャム要素も増しており、「Virtual Insanity」がどのように再構築されるのか、その進化したアレンジにも大きな期待が集まる。
Pentatonix
続いて登場するのは、“声だけ”で世界を震わせてきたアカペラグループPentatonix。楽器を一切使わずに構築される彼らのサウンドは、ポップスの概念そのものを拡張してきた革新的なアプローチとして評価されている。
代表曲として挙げるべきは「Daft Punk Medley」。2014年に公開されたこの楽曲は、Daft Punkの名曲群を巧みに再構築し、緻密なアレンジと驚異的なボーカルテクニックによってYouTubeを中心に爆発的な人気を獲得した。ボイスパーカッション、ベースライン、ハーモニーが完璧に噛み合うその構成は、まさに“人間が楽器になる瞬間”を体現している。ライブでは、この楽曲の持つスピード感と展開の妙がさらに際立ち、観客は視覚的にも聴覚的にも圧倒されるだろう。サマソニのようなロック/ポップ中心のフェスにおいて、彼らの存在は一種の異物でありながら、その完成度ゆえに確実にハイライトの一つとなる。
日本ではLittle Glee Monsterなどのボーカルグループにも影響を与えており、“声だけでここまでできる”という驚きは、Z世代のクリエイティビティにも強い刺激を与えるはずだ。今回のステージでは、観客が手拍子やコールで参加することで、より一体感のあるパフォーマンスへと昇華される瞬間にも注目したい。
BABYMETAL
そしてフィナーレを飾るのは、日本発にして世界基準のメタルダンスユニットBABYMETAL。フロントを務めるSU-METALの圧倒的な歌唱力と、ヘヴィメタルの重厚なサウンド、そしてシンクロしたダンスパフォーマンスが融合したスタイルは、ジャンルという概念そのものを軽々と飛び越えてきた。
代表曲として欠かせないのが「Gimme Chocolate!!」。2014年に世界へ拡散されたこの楽曲は、メタルの激しさとポップのキャッチーさを極端な形で融合させ、“かわいい”と“ヘヴィ”の共存という新たな価値観を提示した。海外フェスでも大きな話題を呼び、その後のグローバル展開の起点となった重要な一曲である。ライブではイントロが鳴った瞬間から観客の熱量が一気に跳ね上がり、モッシュとダンスが混在する独特のカオスが生まれる。その光景はまさに“儀式”のようであり、観客全員が参加者として巻き込まれていく。サマソニのラストという舞台において、この楽曲が放たれる瞬間は、3日間のエネルギーがすべて解放されるクライマックスとなるだろう。
彼女たち自身がすでに世界中のフェスで証明してきた通り、日本の音楽が持つ独自性と普遍性を同時に体現する存在であり、そのパフォーマンスはZ世代にとっても“国境を超える音楽”の象徴として強く刻まれるはずだ。フィナーレにふさわしい圧倒的なカタルシスとともに、サマーソニック2026は忘れがたい余韻を残して幕を閉じる。